兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/08 (Fri) 19:42:46
淡路島では普通種のオオフユイチゴは、兵庫県本州側では現在、大雑把に言うと4ヵ所で確認されています。
神戸市東灘区で2ヵ所、灘区で2ヵ所です。
全ての場所で採集した標本の、専門家による鑑定の結果、お墨付きを頂いています。
オオフユイチゴは本州では主に紀伊半島、四国、九州に分布しています。

この場をお借りして、兵庫県本州側のオオフユイチゴの自生地の様子を報告させて頂きます。
まず、5年程前に最初に出会った東灘区の自生地の一つを紹介します。

その場所は、アラカシ、ヤマモモ、ヒメユズリハ、カゴノキ、ヤブツバキ、カナメモチ、ヒサカキ、アオキ等が優占する照葉樹林に覆われた冬も暗い渓谷です。
樹木では他に、6個体確認しているオガタマノキ、標高280m付近に生えるカヤの樹高20m近くあろうかと言う大木、16個体確認しているイイギリ、少数分布しているウラジロウツギ等が印象的です。
イイギリはタニギリの別名も持ちますが、東灘区、灘区では複数の渓谷に70個体以上分布しています。
最も高所の自生地は西山谷の標高580m付近で、樹齢5年以下の幼樹も10個体程見ています。
樹高15m程の個体もいくつかあって、雌雄の明らかな年齢の個体では、7割くらいは雌株です。
雌株は実が食べつくされた時期になっても、しばらく果柄が残るため、それと分かります。
この画像のイイギリは胸高直径が78㎝あり、私が見た中では最も太い個体で、これから言及しようとしているオオフユイチゴの生える谷にあります。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/08 (Fri) 19:46:05
今年は台風21号のつめあとが山のあちこちに残っていますが、イイギリの雌株もよく実の付いた枝を落としていました。(続く)

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/09 (Sat) 14:18:36
この谷にはウラシマソウが100個体以上生育しており、仏炎苞が赤色を帯びたものがいくつかあります。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/09 (Sat) 14:23:21
この谷ではウラボシノコギリシダがこの画像の個体のみあります。胞子葉をあげた年に標本を採ることができましたが、今年は胞子葉は出ませんでした。阪神間ではこの個体と、もう一つ同様の小株が別の谷に生えていて、絶滅寸前です。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/09 (Sat) 14:26:51
このミヤマノコギリシダは神戸ではこの谷だけにあります。崩れやすい崖地に小株が少しだけ生き残っていて、やはり絶滅寸前です。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/09 (Sat) 14:55:02
さてオオフユイチゴです。
栄養繁殖するため、正確な個体数は不明ですが、この谷にはオオフユイチゴは100ラメット程自生しています。
オオフユイチゴは大型のフユイチゴ類で、大きいものでは茎は2m位にはなり、枝もよく分けます。
この谷の個体は茎の長さが数十㎝位のものがほとんどです。
初めて出会った年には、全く開花結実がありませんでした。
原因は日照不足だと考えられます。
同程度の受光量なら、フユイチゴやミヤマフユイチゴやアイノコフユイチゴは一定数は開花します。
この谷にはフユイチゴも分布していますが、同じようなうす暗い所でよく開花結実しています。
やはりより南方系のオオフユイチゴは、花芽の形成により多くの光を必要とするようです。
他の3ヵ所の自生地はここよりも日照条件が良いため、ある程度は開花します。
この谷のオオフユイチゴの標本を採るため、一昨年分布量の多い場所に陰を作っている常緑樹の枝を払うと、去年そこで開花が見られました。
この谷では50ラメット程のややまばらな集団が2つ、200m程離れて存在していて、今ほど遷移が進みうす暗くなる前には、種子繁殖していたこともあったと思います。
オオフユイチゴは耐陰性は強く、栄養繁殖のみで何年も集団が維持されていたようです。

先ほど触れたフユイチゴはオオフユイチゴとは混生せず、より上流側に点々と数十ラメット生育しています。
興味深いことに、この谷のフユイチゴは全て茎に小さいトゲがあるものばかりです。
フユイチゴの茎のトゲは指で触れてもほとんど痛みがなく、少しひっかかりを感じるようなものです。
葉裏の脈上のトゲの有無がオオフユイチゴとフユイチゴを識別する最も分かりやすいポイントです。
それがあればオオフユイチゴ、なければフユイチゴです。

画像はこの冬に写したこの谷のオオフユイチゴです。崖地で下垂しています。この場所は標本を採るために周囲の枝うちをした所で、やはりここ以外では今年も開花はなかったです。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/11 (Mon) 23:35:09
フユイチゴの茎のトゲについて、山渓ハンディイ図鑑には「トゲがないものも、あるものもある」と書かれていて、ないものとあるものの割合については触れていません。
私の今までの観察では、稀にトゲがあると言うことになります。
香川県のフユイチゴ群植物を調べ、1985年に発表されたイチゴ研究の第一人者である鳴橋直弘氏の「フユイチゴ群植物」と言う論文では、フユイチゴの茎の特徴は「トゲがないか、まれに少数小さいトゲあり」となっています。
この言葉が正しいのなら、数十ラメットのフユイチゴの集団(まばらな集団なので、2,3個体だけで構成されていると言うことはありません。)が全て茎にトゲを持っていることは異例のことなのかも知れません。
それにその集団に属する個体の茎のトゲには、大きいものも2割位含まれています。
上記の論文には、フユイチゴ群植物は、「主に光条件によって、葉柄上の毛やトゲの量が変異する」と言う記述がありますが、トゲの大きさについては外部要因が関係するのかどうか私は知りません。

一般的なフユイチゴの茎のトゲはこの画像のような小さなものです。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/11 (Mon) 23:37:19
その集団の個体に見られた大きいトゲとは、このようなものです。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/11 (Mon) 23:39:31
同様の大きいトゲです。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/11 (Mon) 23:41:08
これも大きいトゲです。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/11 (Mon) 23:42:57
ちなみにオオフユイチゴの茎のトゲは、こんな感じです。

Re: 兵庫県本州側のオオフユイチゴ(その①)

  • 神戸の望月
  • 2017/12/18 (Mon) 22:40:02
茎にトゲのある個体のみからなるフユイチゴの集団とは、アイノコフユイチゴの誤認ではないかと言うもっともなご質問を知人に頂きました。
アイノコフユイチゴは1961年に杉本順一氏がフユイチゴとアイノコフユイチゴの雑種として発表したものですが、その質問に答える前に、上記の鳴橋氏の論文に記載されている、フユイチゴ、アイノコフユイチゴ、ミヤマフユイチゴの特徴を写しておきます。


フユイチゴ  <茎>細い。トゲがないか、まれに少数小さいトゲあり。長い白毛あり。  <葉>中型。裂片は円頭~鈍頭。裏面疎らに密着毛あるか、またはない。   <花序>腋生が多く、頂生は少ない。3~10花。   <花径>1㎝以下。   <ガク片>卵状三角形。密着毛と多数長毛あり。

アイノコフユイチゴ   <茎>細い。多数長いトゲあり。長い白毛と短い白毛あり。   <葉>中型。裂片は鈍頭~鋭尖頭。裏面密着毛なし。   <花序>腋生~頂生。3~10花   <花茎>1㎝以下   <ガク片>卵状三角形。密着毛と少数長毛あり。

ミヤマフユイチゴ   <茎>細い。多数長いトゲあり。長い白毛はなく、短い白毛あり。   <葉>中型。裂片は鋭頭~鋭尖頭。裏面密着毛なし。   <花序>頂生が多く、腋生は少ない。5~13花。   <花茎>1㎝以下。   <ガク片>卵状三角形。密着毛のみ。長毛なし。


大きいトゲのあるフユイチゴの茎の画像を3つあげましたが、一番上の画像の茎を持つ個体はこの画像のような未熟な果実をつけていました。
ガクの外面に多数長毛が生えていて、これはフユイチゴの特徴を表しています。
葉の裂片も円頭でフユイチゴの特徴を備えています。
ただやっかいなのは、アイノコフユイチゴが単純なF₁雑種でなく、浸透交雑を繰り返した複合体である場合、上記の外部形態の特徴だけでは同定できないことになります。
因みに、鳴橋氏の記載した特徴とは異なる、茎にトゲのないアイノコフユイチゴ(それ以外の特徴は同じ)の50ラメットほどの集団が、神戸市灘区で見つかっています。専門家による標本鑑定の結果、アイノコフユイチゴと同定され、人博にその標本を納めました。
   
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